④「スターリン秘史―巨悪の成立と展開」
不破哲三/著 雑誌「前衛2013.2」より
不破哲三/著 雑誌「前衛2013.2」より
「スターリン秘史」の執筆にあたって④
「ディミトロフ日記」との出会い①
さっそく調べてみて、まず最初に手に入れたのは、アメリカのエール大学出版部が公刊した英語版(2003年)でした。続いて入手したドイツ語版は、年代が「1933年~43年」とコミンテルンの解散まで区切られていましたが、英語版の方は「1933年~1949年」となっており、第二次大戦後、ディミトロフがブルガリアに帰国して以後の時期まで含まれています。ただ、内容は、「日記」全部の英訳ではなく、編集者が重要だと思う部分を選択して編集した抄訳版で、要所要所に編集者の解説が付けられているのが特徴です。
「ディミトロフ日記」の原文は、19冊のノートからなっていて、まず、1997年にブルガリア語版がソフィアで発行され、その各国語約が順次発行されたようで、いま分かっているのは次の諸版です。
2000年 ドイツ語版。1933年~1943年の部分の全訳(上下2巻)
2002年 中国語版。桂林・広西師範大学出版部発行の「選集」。全時期にわたるが、中国関連部分に重点をおいた抄訳。
2003年 英語版。エール大学出版部の刊行。三分の一にカットされた抄訳版で解説付き。
2005年 フランス語版。全時期の全体が収録されている。
さて、「日記」の内容ですが、まず英語版をざっと拾い読みして、驚きました。これまで秘密のベールに包まれていた多くの謎が、事実経過そのものが持つ力で、いとも簡単に解けてゆくのです。また、国際的な運動の中でよく知られた出来事で、それが起こったいきさつはこうだったとか、とはじめてその意味が分かり、腑に落ちるという問題も、随所にありました。これは、スターリンの覇権主義の歴史の研究にとって、きわめて有力な貴重な書物であることを痛感しました。
コミンテルン書記長という、世界の共産主義運動の要をなす地位にいる人物の「日記」だとはいえ、他人に読ませるつもりのない、おそらく自分の心覚えとして書きとめたであろう日記ですから、その内容には限界があります。まず、全体は一日数行、あるいは一行の時もある短い文章が多く、そこで取り上げられている問題についての解説的なことはまったく含まれていません。しかし、時には、一行の文章のなかにディミトロフの強い感情が込めれれていて、そこから重要な情報を読み取ることができる場合もあります。また、全体として、スターリンと会った時の会話や、スターリンが内輪の会合で話した談話などは、その要点が克明に記録されています。
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